第30回日本刺絡学会学術大会(東京大会)参加報告

はじめに

第30回日本刺絡学会術大会が2022年6月26日に江戸川区タワーホール船堀において

開催された。玉田萌菜が南雲治療院を代表して参加したので報告する。

大会テーマは「日本刺絡学会の歩み~ベテラン講師が伝える刺絡鍼法~」であった。

9:30に、日本刺絡学会会長・清水尚道による開会の挨拶があり、引き続き会頭講演(楠本淳)が行われた。続いて、午前は、衛生(医師・杉山友彦)、広報に於けるリスクマネージメント(小池栄治)、井穴刺絡実技(工藤哲也)、皮膚刺絡実技(友部和弘)の講演があった。

昼休みを挟んで午後より、細絡刺絡実技(間純一郎)、緊急時に於ける刺絡(石原克己)、臨床に使える刺絡の歴史(関信之)があり、最後に、大会実行委員長・内山千代より閉会の挨拶があって、16:00に終了した。

以下、プログラム順に感想を交えて述べる。

  1. 会頭講演

講演して頂く先生の紹介や今まで刺絡学会に携わってくださった方の紹介などがありました。

  1. 衛生

 刺絡治療をするにあたって、注意すること

  1. 基本的に血液には直接接触しない(グローブの着用など)
  2. 触れてしまった場合はまず流水で洗い流す。B・C型肝炎、梅毒、HIV、クロイツフェルトヤコブ病など感染を避けるため

刺絡ってどういう治療なのか? 

鬱滞している血液が症状の原因だと考えられ、原因となっている瘀血を除くことで完治へ導く。患者さんには、とにかく原因が血液の流れがうまくいっていないこと、そこを通してあげることで改善されることを理解してもらう。気血を強く疎通する手段を行います、など必ず説明を行ってから治療することが望ましいです。

  1. 広報に於けるリスクマネージメント

法律上、医師のみに認められた瀉血療法と、刺絡が混合されて鍼灸師が医師法違反と言われ家宅捜索が入り裁判となりましたが、無罪となった事例がありました。

しかし、刺絡は東洋医学の伝統的な手法で、経穴に鍼をすることで結果的に微量に出血することが多い手法であり、これを鍼灸師が行うことは合法です。

  1. 井穴刺絡実技

まずは患者さんの手の色を見ます。

甲の色、指先の色を比較した時に色に差があって、指先の方が濃い色をしている時は井穴刺絡が有効です。絞りかたは爪の上下を圧迫するか、四方向から圧迫します。指先は側面に流れている血液が多いです。片手だけ刺絡が終わったら、手をグーパーしてもらって動きやすさ、感覚を確認してもらうとわかりやすいです。

指先のささくれが剥けて血が出たことはありませんか? 井穴はささくれができやすいところにあります。自然と身体から血液を出したがるところ、悪い物が外に出せる場所と考えられ、血糖値低下など全身に影響が出やすいです。

刺絡治療の後ふわふわ、ふらふらするといった方には飴が効果的です。

  1. 皮膚刺絡実技

皮膚刺絡

  1. 最も多いのは 局所
  2. 腰の痛みには 委中
  3. 特定できない痛みには 委中+尺沢

 手足の井穴刺絡+肩背部の皮膚刺絡で脳卒中の予防ができます。

〔ここから全て刺絡+吸玉〕

  1. 手足の井穴+大椎の両隣 脳の循環、首肩こり
  2. 手足の井穴+身柱の両隣 気管支、心臓の裏、
  3. 手足の井穴+膈兪 横隔膜
  4. 手足の井穴+肝兪 副腎皮質ホルモン分泌増加
  1. 細絡刺絡実技

皮膚の極めて表層に現れる毛細血管腫

  1. 生理的細絡 妊婦さん、季節等による出現

( 出血少 色明 光沢あり 圧迫で消えない )

  1. 病理的細絡 局所血流の異常

(出血多 淡紅色〜暗紫色 圧迫により消えてすぐ戻る、流動性のあるもの)

  1. 何も問題なくても現れる

私たちが刺絡の対象とするのは②のような流動性のある細絡で、線状、糸状のものよりも、点状で丸っぽく広がっている細絡で、出やすいのは足首周り、肩甲骨周りです。

足は冷えているのに頭はなんだかのぼせたような感じがするといった上実下虚の症状には肩甲間部の細絡刺絡で改善できます。

  1. 緊急時に於ける刺絡
  1. 風熱型感冒
    1. 大椎+井穴(少商、商陽など)
    2. 高熱時(十宣)
  2. 小児ひきつけ、夜泣き
    1. 攅竹
    2. 印堂、身柱、四縫
  3. 狭心症発作、心痛

然谷(右)

4,  喘息

定喘+璇璣+華蓋+井穴(少商、湧泉など)

  1. 頭部熱感

四神聡+百会(五神聡)+井穴(大敦など)

  1. 目の充血、痛、麦粒腫

耳尖+井穴(大敦など)

  1. 舌疾患(強ばり、弛緩、言語障害、味覚障害)

舌尖下部+井穴(少衝、湧泉など)

  1. 鼻疾患(副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎)
    1. 鼻咽喉穴(鼻咽喉穴鍼→出血)
    2. 内迎香+井穴(少陽、厲兌など)
    3. 素髎
    4. 扁桃腺(喉痺鍼)
  2. 中風、下肢麻痺、発赤、痛、腫脹

気喘(足十宣)

  1. 臨床に使える刺絡の歴史   

古来 血液は、神聖な物〔精力の根源〕とされていました。

肝の据わった敵の大将の肝を食う

身体の弱いところを補うためにその部分を食べる。といった考え方がありました。

最後に

この度、刺絡という貴重な勉強の機会を頂き有難うございました。

刺絡は特に医師法との絡みもあり、皆さんにとっては理解が難しい治療法だと思われますが、鍼灸師はしっかりと理解して正しい情報を患者さんに伝えなければいけないと改めて思いました。

今回の経験はとてもいい刺激になり勉強になりました、今後、患者様の治療に生かしていきたいと考えています。

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