世界鍼灸学会連合会WFAS(The World Federation of Acupuncture – Moxibustion Societies)の国際シンポジウムが2019年11月14日~17日の4日間にわたってトルコのアンタルヤで開催された。
トルコは約77万㎡の国土(日本の約2倍)に約8430万の人口(2020年1))を有し、東洋と西洋の更には南北の架け橋であり続けている国である。石器時代(B.C.8000年)にさかのぼる集落の形成に始まり、「文明の発祥地」として歴史と考古学の宝庫であり、16ヶ所の世界遺産がある。アンタルヤはトルコ南部の地中海に面した街で、B.C.1900~1400年はヒッタイト帝国が支配していたといわれ、トルコ観光業を担う最重要都市である2) (図1)。
会場はカヤプラザホテル(Kaya Palazzo Hotel)である。アンタルヤ国際空港から35 km、ベレキ市内中心部から27キロと、アンタルヤのダウンタウンから離れたリゾート地帯にある。飛行場からホテルまでは約30分であり、学会指定の乗り合いタクシー代が片道一人あたり30ユーロと高かった。学会会場と宿泊ホテルは同じ建物の中にあり、オールインクルーシブのコンセプトである。コンセプトの範囲内で、朝食、ランチ、ディナー、軽食、アルコール飲料、ソフトドリンク等を終日無料で提供しているがホテル代は高額であった。
今年の鍼灸国際シンポジウムのテーマは「鍼治療と補完医学に関する国際合意」である。
(International Consensus on Acupuncture and Complementary Medicine) 受付ブース(図2c)で受け取った学会プログラムは首から下げるネームホルダーの中に入っていた。サイズは、横10cm、縦12.3cmであり表裏合わせて44ページであった。そこには、会場、発表時間、タイトル、演者名のみが記載されていた。学会参加証(図2d)も一緒に受け取った。講演会場は4カ所あり、オーラルセッションの基調講演、招待講演、ワークショップ(有料)、一般口演等が行われた(図3)。ポスターセッションの場所は、会場中央部に広いスペースを占めた業者展示ホールの隅の壁際にあった。しかし、出展業者達の特大看板の陰になり、全く目立たなかった。ポスターを貼るボードは一列のみであり、表と裏に貼り付けるようになっていた。ボードの表面に貼ったポスターは辛うじて目に留まったが、裏側のポスターは見る人が少なく(気が付かない)寂しい雰囲気だった。ちなみに、著者は裏側の更に端の方だった。ポスターの規定サイズは70cm×90cmで小さめであり、作成するのに困難を覚えた(図)。発表テーマは、大敦(LR1)への円皮鍼貼付による胃部愁訴に及ぼす影響―Press Tack NeedleとSham Needleによる検討―であった
学会終了後2週後になってからようやくホームページ上にアップされたWeb抄録集を見ると、ポスター発表は33題であり、日本からは8題であった。また、口頭発表は招待講演1題と一般口演1題であった(表1)。ちなみにWeb 抄録集は264ぺージあった
日本からの学会参加者は約20名であった
表1 日本からの筆頭発表者と所属(順不同)
招待講演
横山 奨 アイム鍼灸院・東京都
一般口演
佐野泰之 佐野鍼灸院・兵庫県
ポスター発表 8 題
金子 泰久 呉竹学園東洋医学臨床研究所
西村 理恵 兵庫医科大学
木村 研一 関西医療大学 保健医療学部
辻内 敬子 せりえ鍼灸室
中澤 寛元 常葉大学 健康鍼灸学科
星川 秀利 常葉大学 心身マネジメント学科
村上 高康 常葉大学 健康鍼灸学科
南雲三枝子 南雲治療院・札幌
今回のトルコ学会のテーマが、「鍼治療と補完医学に関する国際合意」である。
MAIN TOPICS(メイントピックス)とDISCIPLINES(学科)に分けて、その他の専門分野(伝統的および補完的な医学):OTHER DISCIPLINES (TRADITIONAL AND COMPLEMENTARY MEDICINE)の項目に、日本では馴染みのない療法もあったので紹介する。
「Apitherapy(養蜂療法)、Chiropractic(カイロプラクティック)、Cupping Therapy(カッピングセラピー)、Hirudotherapy(薬用ヒル療法)、Homeopathy(ホメオパシー)、Hypnosis(催眠術)、Maggot Therapy(ウジ虫治療)、Mesotherapy(メソセラピー)、Musicotherapy(音楽療法)、Osteopathy(オステオパシー)、Ozone Therapy(オゾン療法)、Phytotherapy(植物療法)、Prolotherapy(プロロセラピー)、Reflexology(リフレクソロジー)」。
トルコは幅広く様々な補完医療を用いているようである。業者展示は、鍼灸関連は中国2社のブースのみである(図5a)。医療用ヒル療法の展示ブースでは、大きな生きたヒルがビンの中に入って動いていた(図5b,c)。他には美容関連やアロマセラピー(図5d)、酸素療法等の補完医療や書籍販売等が多くを占めた
海外参加者達との親睦会
夕食後はロビーで海外の参加者と親睦を図り、各国における鍼灸事情や補完医療等の情報交換をした。トルコは医師でなくても専門学校に入って国の試験に合格するとある程度の治療行為が出来るとのことにて、日本と類似していると思われた。
著者は、日本から持参した円皮鍼(製品名:パイオネックス・セイリン社製)で治療を披露した。特に痛みに対して即効性が得られたことより、皆が驚いていた。トルコは伝統的診断・治療法も盛んで、脈診や腹診も行われていた(図6) 。
11月15日にGARA NIGHT(懇親会)が盛大に行われた。世界三大料理のトルコ料理のフルコースを美味しく食しながらトルコの有名な女性歌手二人の素晴らしい歌声を堪能した。曲に合わせてダンスを楽しみ、大いに盛り上がった(図7a,b)。
学会終了前日の18:00頃に、受付カウンターにいた学会事務局のイケメンの担当者に学会参加者数を尋ねたところ、著者が持参した用紙に参加者の内訳を記載してくれた(図8)。世界40カ国から500名の参加があり以下、Sponsor(スポンサー)が20社、Invited speakers(招待講演者)が86名
Scientific session(科学的セッション)が57演題 、Workshop(ワ-クショップ・有料)が37題 、Abstract:196演題とのことであった。2019WFASトルコ・アンタルヤ学術大会は成功裏に終わった。
2020年のWFASは、5月8-9日の2日間をオランダのアムステルダムでの開催予定であった。しかし、全世界に及ぶ新型コロナウイルス(COVID-19) の蔓延のために、9月25〜26日に延期されたが、感染終息が見込めず、開催約2カ月前に中止となった。著者は学会の参加を予定していたので本年の1月に航空券やホテルをWeb上より旅行代理店を通して購入していたが、すべてがキャンセルとなった。それらのキャンセル料の払い戻しの手続きに苦慮した。世界的に交通宿泊関連がパニック状態となり、旅行代理店と連絡が取れない状態が続いた。6月になってから徐々に返金されるとの連絡がきたが、8月現在でお金の振り込み時期が未定の航空会社もある。2020 WFAS・アムステルダム学会ホームページに、「来年、またお会いしましょう(We will see you next year.) 」と記載があったが現状の感染の拡大を推察するに、無事開催できることを祈るばかりである。
謝辞 この度の著者のポスター発表に対して、日本伝統鍼灸学会国際関係部門のサポートを受けたことに感謝申し上げます。
なお、本原稿(一部改変)は、日本伝統鍼灸学会誌.第48巻第1号.2021年:57-62、に掲載されたものである。
参考文献
1) 世界の人口ピラミッド トルコ.参照2020年9月12日,
https://www.populationpyramid.net/ja/%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%B3/2020/
2) MBS トルコ,出版、販売:MBS TURIZM YAYIN SAN.VE TIC.LTD.STI.2009
Tel:(0212)485 40 25 – 458 40 26. www.mbsturizm.com.tr 日本語翻訳 清水万里子
3) 石崎直人、鶴浩幸、斉藤宗則 他4名.WFASトルコ大会における執行理事会、学術交流、中国発大規模RCT解説.全日本鍼灸学会雑誌.Vol.70,No.1,Feb.2020,p7591
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