第72回 全日本鍼灸学会学術大会 神戸大会

はじめに

令和5年6月11日、12日の2日間にわたり、神戸国際会議場にて

『第72回全日本鍼灸学会学術大会 神戸大会』が開催された。

コロナ禍を経て、対面で開催されたのは4年ぶりであった。

来場者数は約1,600人が全国各地から集まった。

大会のテーマは、『鍼灸学の次代展望~経験から学び、持続可能なエビデンスをつむぐ~』

このテーマの込めた意図は、日本の疾病構造の変化とニューノーマル時代の到来に、鍼灸が国民に寄り添う医療として、次代に繋ぐべく持続可能な医療として存在意義を示さなければならないということである。

プログラムは幅広く充実しており、『基調講演・特別講演・教育講演・シンポジウム・パネルディスカッション・実技セッション・テクニカルステップアップセミナーなど』が企画されていた。

南雲治療院を代表して白取篤弥が参加した。

実技セミナーで学んだことを報告する。

スポーツ領域における鍼灸治療~持久系スポーツ選手のコンディショニング~

金子 泰久(呉竹学園 東洋医学臨床研究所)

過酷なトレーニングによる局所あるいは全身の疲労を訴えて来院する選手が多く、こうした選手に対して筋緊張の改善や疲労回復促進を目的として定期的に鍼灸治療を行うことで、選手はフレッシュな状態で練習やレースに臨むことができている印象である。

多職種を選手をサポートするにあたっては、特別なテクニックや特効穴よりも疾患に応じて共通した施術方針を立案し一定の施術を提供できることや、施術の目的や方法が他職種に明快となることが重要であると語った。

実技ではトライアスロンや陸上長距離といった持久系スポーツ選手に対して筋疲労を軽減する目的として、坐骨神経が出てくる場所に円皮鍼や、大殿筋や中殿筋を狙って鍼施術を行った。

しかし、長距離ランナーには鍼灸施術をしたからタイムが速くなるワケではないと金子氏は述べる。

国際頭痛分類に基づく頭痛に対する鍼灸治療の実際

山口 智(埼玉医科大学 東洋医学科)

頭痛に対する鍼灸治療は主に片頭痛や緊張性頭痛、薬剤の使用過多による頭痛などを取り扱うことが多い。こうした頭痛に対する鍼灸治療の効果や作用機序について、脳神経内科と共同で基礎・臨床研究を実施し、その成果を関係医学会に報告してきた。

実技では、仰向けの場合、側頭部の反応点や古典の記載による遠道刺の手技を用い、下腿や下肢の経穴を使用し、うつ伏せでは、片頭痛発作予防と緊張性頭痛に対して頚部や肩背部にに低周波療法を行った。

片頭痛患者は過敏な方が多いため、刺激量に注意が必要と話した。

山口氏の研究結果により頸や肩の圧痛スコアと頭痛日数の減少が相関することから、頸肩部に認められる圧痛や緊張部位を重要視していると強調した。

不妊症(女性)に対する鍼灸治療

木津 正義(明生鍼灸院)

約30年前は10組に1組のカップルが不妊に悩むと言われていたが、昨今では5.5組に1組まで増加し、1年間に出生した新生児の14.3人に1人は生殖補助医療(ART)による出生であり、以前よりも不妊治療が身近になってきた中、鍼灸が役に立つことが少しずつではあるが明らかになってきていると語る。

1.良い質の卵子と精子を用意できるか。2.体内もしくは体外で受精できるか。3.良い環境に着床できるか。4.妊娠を維持できるか。が不妊治療が成功するかどうかの4つのカギが重要であると強調した。

実技では、着床後3ヶ月が鍼灸治療が最も大事である。

仰向けでは、大巨・関元・中極・大赫・血海等を単刺術を行い。うつ伏せでは、上後腸骨棘と坐骨結節内側下端を結び上後腸骨棘から50~60%の領域で低周波治療を行った。

パーキンソン病に対する鍼治療

福田 晋平(新潟福祉大学 リハビリテーション学科 鍼灸健康学科)

パーキンソン病に対する鍼治療の効果として、振戦や、筋強剛、歩行機能に対する効果が比較的多く報告され、筋骨格系の痛み、便秘や睡眠障害、うつ症状非運動症状に対する効果も報告されている。

パーキンソン病に対する鍼治療方法は中医学の弁証論治に則った治療が標準的な方法となると福田氏は語る。

実技では、突進するような歩行や太ももの上に手を置きふるえがあるか等の検査を行う。

中医学の弁証論治では、肝・腎・脾の病証が多い。

陽陵泉(反応出やすい)・三陰交・風池・曲池・合谷・百会・肝兪・夾脊等を選穴し、回旋術や雀啄術などパーキンソン病に対する検査方法や、鍼治療方法について実演した。

美容における鍼灸治療の実際~健美鍼灸~

高野 道代(新潟福祉大学 リハビリテーション学科 鍼灸健康学科)

高野氏は、美容鍼灸をはじめた当初、“美容における鍼灸の役割”、“鍼灸だからこその美容”とは何だろうかと考えた時、そこからたどり着いたのが“健美鍼灸”“疏通經絡健美法”であると語る。

“疎通經絡健美法”の中の基礎施術は、根結理論(霊枢根結篇)を応用し、頭顔面部の少数の経穴と四肢の経穴を用いることで疎通經絡をより促進し、心身の気の巡りを良くすることを目的としている。

実技では、術前術後に患者に鏡を持ってもらい、1.目尻 2.眉尻 3.ほうれい線 4.口角 5.フェイスライン 6.笑顔の時にあがりにくい等を確認する。

疎通經絡健美法の基本穴は四肢は合谷・内庭・侠溪、顔面部は顴髎・太陽・攅竹、耳は神門・肺領域を使用した。

循環系症状(冷え症)に対する鍼灸治療

坂口 俊二(関西医療大学 保健医療学部 はり灸・スポーツトレーナー学科)

厚生労働省の2019年国民生活基礎調査の有訴者率によると冷えの訴えは女性に多く、特に出産適齢期に最多となる。冷えは、気温の低下などの刺激に対する自信の感覚を意味し、冷えがきっかけで心身機能の不調、異常によって日常生活に支障をきたす(軽い)病気を冷え症という。

冷え症のタイプでは、1.四肢末端型2.下半身型3.内臓型4.自律神経型の4つに分類される。

実技では、基礎疾患の例として閉塞性動脈硬化症のフォンテイン分類による鍼治療で合陽と承筋に低周波治療、膠原病による二次性レイノー症候群に対して八邪と手三里に低周波治療を行った。

自律神経機能障害で三陰交・湧泉・足三里へ温筒灸を紹介した。

坂口氏は、灸をしたからすぐに冷え症が改善されるワケではなく最低でも3週間続けなけらばならないと語る。

さいごに

神戸大会に参加して得たことを臨床の場へと繋げていき、1人でも多くの患者様のご健康の役に立てるよう努力してまいります。

神戸大会の参加の機会をいただいた、南雲院長に感謝申し上げます。

神戸国際会議場
神戸学会
業者展示の様子
神戸学会 参加証
目次