はじめに
千葉県にある関東鍼灸専門学校にて開催の「日本刺絡学会 刺絡鍼法基礎講習会」を9月から12月までの4か月にわたり受講しておりました。実はタイミング悪くインフルエンザにかかり最後の講習は受講出来なかったのですが、無事に修了証を頂くことが出来ました。
刺絡鍼法の基礎から応用まで幅広く学ぶことができ、大変勉強になりました。今回の講習は自分自身の知識、技量を増やす事が出来たと実感しております。そして刺絡という治療法の大切さを改めて感じました。学んだことを活かし患者様に満足していただけるよう、これからも頑張っていきます。
理論 関係法規・衛生井穴刺絡の意義と適応
実技 用具と消毒法・デモンストレーション
井穴刺絡の実際
【 心構え 】
まず、井穴刺絡は三稜鍼で指を押さえる刺激、絞る刺激、拭く刺激、といろいろな刺激が加わるので、多く出血させる必要はない、1滴でも充分効果がある。
川のゴミを少しさらってやり、川のつまりを抜く。
これを常に念頭に置き、無謀なことはしないようにする。
【 消毒 】
1、施術者は必ず手を洗い、手指消毒しグローブ着用。鍼皿、ガーゼ、酒精綿をる。
2、2度拭き 1枚目で汚れを取る→2枚目で消毒(2枚使う)
必ず乾燥してから施術に入る(エタノールが渇いた時に、菌を脱水して殺菌する)
【 三稜鍼の使い方 】
鍼の長さを調節する、決して長く出しすぎない。
ネジに手が触れて緩み、鍼先が出過ぎたり、中に入ってしまう時があり、3本位切皮したら必ず長さを見る。
井穴の位置を確認する→親指と示指で三稜鍼を押さえる。見た目垂直。(垂直でないと鍼が刺さらない)
☆この時三稜鍼のマルの跡を確認する。
丸がしっかり付いていることによりわかることは
①鍼が垂直であること
②筒の中に皮膚が入り込み、短い鍼先でも充分切皮することができる。
叩く
上手く出来ないからといって何度も同じみぎて指を刺さない(せいぜい2回位まで)
絞る
術者の左手の圧が一番大切。この圧が足りないと右手で押しても思うように出血しない。
右手で押さえる時は爪を立てない、ガーゼはエコノミーに使うように。縦線を意識すると良い。
5から6回絞ったら、次の指へ
慣れるまでは一本ずつ切皮すること。→時間がかかると次の指に行くまでに切皮したところが乾いてしまうため。
ただ出血させるわけではなく、血液の性状と色を見ること。
片手を絞り終わったら、次の手に行く前に確認すること。
1、両手をグーパーし感覚の違いを確認する。
2、両手を見比べて指の太さの違いを見る。
3、両手の甲の皮膚の色、艶の違いを見る。
4、皮膚温の確認。
理論 皮膚刺絡の意義と適応刺絡の歴史
実技 皮膚刺絡の実際
【 皮膚構造 】
表皮 0.1から0.3mm
真皮 1から3mm 毛細血管、同静脈吻合、間質液、感覚神経受容器など
皮下組織 2から9mm
【 毛細血管 】
動脈と静脈の境界部で、血管の中で最も細くて最も薄い
物流交換の場 酸素⇆二酸化炭素 栄養素⇆老廃物
【 重要刺絡部位 】
末端と関節 筋腱移行部と腱付着部も含む。
(循環障害が起こりやすいところ)
経穴主治法、臓腑経絡、神経分布などからの選択もある。
解熱(刺絡には熱邪を取り除く作用がある。)→大椎、井穴、十宣、
腰痛→委中
頭痛→百会 など
【 気血の循環 】
身体の中には経絡が巡り、気血が流れている。それによって、臓腑、組織器官が栄養、滋潤されている。
経絡中の気血の流れが順調であれば、病気にならない。しかし、その流れがとどこったり、つまったときに病気が生じる。
流れの悪くなった気血のために栄養と酸素に富んだ気血が流入することを妨げられているから、病気の治癒機転を障害している。
刺絡することで滞った血液が除かれ、新鮮な血液が流れるようになり、病気は快方へ向かう。
【 目標 】
凝り、緊張、硬結、膨隆、腫脹、圧痛、発赤、熱感、水疱、乾燥、染み、黒ずみ、暗赤色、紅点、➡︎ブヨブヨ(ノイローゼ、精神疾患の方に多く見られる。特に頭部)細絡 など
【 吸角 】
皮膚を陰圧で吸引する 吸着部に血液が集まる
血管拡張→血流量増加→体温上昇
吸着時間 数秒から数分を1から3回繰り返す
【 吸角使用で注意する時 】
1、高齢者や体質的に皮膚が弱い人
2、知覚鈍麻や麻痺があるところ
3、日焼けしてまもない時
4、これから日焼けする時(内出血のあるところは色素沈着しやすい)
動脈を傷つけない。静脈刺絡もしない。
鍼先は1ミリに設定する。
療は腹臥位、または仰臥位で行う。
虚弱(特に陰虚、血虚)患者や刺絡に対して不安を持っている患者には行わない。
水っぽい人、ブヨブヨしている人は凝りが強くても刺絡は向かない→灸や吸角がよい。(皮膚がガサガサしているような人には刺絡が良い。)
【 禁忌 】
絶対禁忌 血友病、紫斑病、など止血機序の障害がある者。
注意
貧血(10mg/dl以下)は要注意
血小板10万以上は可能、3万以下不可
血液凝固阻止薬(ワーファリン、バイアスピリン)止血を確認。
ステロイド服用者→皮膚が弱くなっているため感染しやすい。
ステロイド服用者の水腫や皮膚硬化は不可
癌末期、脳血管疾患、高度の心不全=多量の放血は危険性が高い。
【 止痛 】
『不痛則痛、通則不痛』
刺絡は鬱血した悪血を直接取り、気血の流れを順調にするので、鎮痛作用が強い。
臨床的には、各種関節疾患や筋肉痛、頭痛、神経痛など。
経絡的に考えれば、局所とその所属する経絡を疎通することで、その経脈上の気血の流れを改善することができる。
【 解毒 】
虫刺され等、局所に発赤、腫脹がある時は、刺された部位とその周囲に刺絡。
帯状疱疹にはその神経根に相当する圧痛部位と発疹の周やその経脈の井穴に刺絡。
水疱がある時は、感染の危険性があるので潰さないように注意する。
【 止痒 】
『治風先治血、血行風自滅』
痒みは風気が血脈中にあると考えており、血を巡らせることが治療原則となる。
湿疹や蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などの痒みに
肩峰部+上半身は肩背、局所、指端/下半身は腰仙、局所。
その他、血に関係する経穴(曲池、血海、膈兪、肝兪、委中、大椎、百会)など。
【 緊急時於る刺絡 】
風熱型感冒
大椎(手の三陽経、督脈の交会】+井穴
高熱時(井穴→十宣)
小児のひきつけ、夜泣き
攅竹、印堂、身柱、しほう
狭心症発作、心痛
然谷
喘息
定喘、せんきor華蓋+井穴
頭部熱感(頭痛、不眠、眩暈)
四神そう、井穴
目の充血、痛
耳尖+井穴
舌疾患(強張り、弛緩、言語で障害、味覚障害)
舌尖下部+井穴
刺絡をなんとなくではやらない。理由、目的、内容、注意事項など、自分のやっていることをしっかり理解した上でなければやってはいけない。
理論 細絡刺絡の意義と適応、日本の刺絡治療の沿革
実技 細絡刺絡の実際
Ⅰ 細絡刺絡とは
日本独自の細絡刺絡→毛細血管腫を刺切して放血させる方法
細絡観
①生理的なもの、妊婦、季節等による出現
②病理的なもの、局部血流の異常
③何も問題なくても出るもの
Ⅱ 臨床上有効な細絡見分け方
(生理的細絡)
出血少、色は明るく光沢あり、圧迫しても消えない
(病理的細絡)
出血多、色は淡紅色から暗紫色まで種々の段階
また、圧迫すると一瞬消えてまた現れるもの。流動性があり、線状よりホクロ形状のものの方がベターな場合が多い。
(細絡の探索法)
できるだけ明るい光線の下で
わずかに湿らすと見つけやすい。乱反射を避け、光線の角度を変えつつ指頭で皮膚の紋理を拡げ、ときにはルーペ使用見つけ次第その場所をマーキング!
Ⅲ 身体の各部位
- 肩背部
この部は細絡出現の頻度が最も高く、腰仙部とともに体幹の二大重心点で上肢運動の力点であるため、循環障害を引き起こしやすく、非常に臨床的価値のある部位である。ごく大雑把にいえばこの部位は上半身のすべての疾患に対して効果的である。
肩こり、頭重を主訴とする疾患
(高血圧症、更年期症、慢性胃炎、脚気等)
頭痛、眩暈を主訴とする疾患、メニエール病他、
心悸亢進を主訴とする疾患
(心臓性喘息、バセドー病、ただし心筋梗塞には禁忌)→心疾患で手術歴のある方は肩背部、心臓の真裏は避けて注意して気をつける。
呼吸困難、咳嗽、喀痰を主訴とする疾患
(気管支喘息、慢性気管支炎等)
その他(耳、鼻、咽喉の各種疾患、眼疾患、顔面、頸部の各種疾患)
- 腰仙部
肩背部と共に臨床上重要なポイント。
広く下半身全般の疾患に応用して有効。各種慢性疾患には、日をおいて反復施行すると予想外の回復が得られる場合もある。
腰部の疼痛を訴える疾患
(いわゆる腰痛、坐骨神経痛、他下肢神経痛等)
③ 下肢関節炎
(膝、足関節リウマチ、同単純性関節炎、股関節炎等)
- 婦人科疾患
(月経困難症、無月経、子宮内膜炎、卵巣、卵管炎、更年期症、異常出血、慢性帯下等)
- 泌尿器疾患
(膀胱炎、尿道炎、腎盂腎炎)
前立腺肥大、睾丸炎、大腸、直腸炎、痔疾患、本能性高血圧症
- その他(下半身の皮膚病、婦人の冷え性にも有効)
- 肩峰部
肩峰から肩甲骨上縁にわたる部位
肩こり、上肢神経痛、麻痺、リウマチ、五十肩、皮膚病(特に蕁麻疹に有効)、乳腺炎等
- 顔面部
頬骨部から頬骨に及ぶ部位。
この部位は顔面部で最も好発。顔面には頭蓋内外に出入りする静脈叢があり、この部位の細絡刺絡により局部、脳循環を急激に促すことができる。この部位は吸角を用いると皮下出血を起こしやすいので、手指で絞って採血する。
頭痛を主訴とするもの(高血圧症、眼疾患等で頭痛を伴う場合に卓効を呈する。)
- 三叉神経痛、顔面神経麻痺、顔面痙攣
五官の疾患(眼、鼻、耳、口等)歯疾患
- 腓骨小頭部
下腿外側腓骨小頭付近の部位。
特に婦人に頻発しやすい。
各種婦人科疾患、特に慢性帯下
出血性疾患(胃、十二指腸潰瘍、痔出血等)
腰痛、坐骨神経痛等
Ⅳ 放血の限度について
放血量は患者の体力、疾病の種類、程度等を考慮して加減することはもちろんであるが、基本は血液の色調および粘土等の変化を観察することが重要。
粘調度は刺絡部位より流血する血液の流れる状態、噴出性の太さ、勢い等によって判断。
放出血液の色調の変化に伴って、眉間、鼻根、指端ならば、爪甲、その他の場合はその付近の皮膚、粘膜の色調や光沢、こり等の変化が必ず起こるので、刺絡時には常にこの変化の観察を忘れてはならない。
刺絡は基本的に、末端部位から始め、放血量は少量から試みることが原則。
吸角のしにくい部位の圧迫法
手指、顔面、臀部等の吸角の使用しにくい部位は、手指による圧迫法を用いる。
圧迫する部位はなるべく広くし、徐々に力を入れて取血する
反復する場合はなるべくゆっくり行う力は下方向へ加える
つまんで横に力を加えると内出血を起こしやすい。
理論 広報のリスク管理、症状別刺絡鍼法
実技 症状別刺絡の実際
Ⅴ リスクマネージメント
副作用、過誤 →倦怠感、皮下出血
患者さんとのコミュニケーションをしっかり取り、最初に伝えておくことが重要。
患者さんに説明をする際は、血を取るという行為だけでなく、症状の原因として瘀血と呼ばれる鬱滞している血液が考えられます。それを少し取り除いて治ろうとする力が働きやすくする施術をします。など、治療の目的をはっきり意識的に伝える。
Ⅵ 刺絡鍼法のリスクとは?
術者や患者に血液由来の感染がありうること
はり師は認められている法的領域を逸脱すると疑われること
万が一の際に、業務外の対応を強いられこと
→保健所や炎上への対応(時間がかかり、その間は仕事できなくなる)
血の捉えられ方
血は生理的、本能的に怖いと思わせる要素である。
ケガレ、生命誕生と個体生命の危機という両面がある。共に命に関わるという強い意見を持つ。
血の赤色は自己主張の激しい色とされ、小さくても目立つように使われる。
SNS上へ、血液の出ている画像、鬱血痕、吸角内で噴出する画像や「血を出す」「瀉血」などといった表現は受け手にとってインパクトはあるが、様々な解釈を生み、結果的に一部の人の反感を招くような情報発信になる場合もある。
現状では、臨床において出血している場面を見せたり、その画像をネット上に表現することは控えたほうが無難だと考えられる。集客に結びつく宣伝効果よりも、炎上してしまった場合の経営の支障をきたすほどの悪影響とのバランスがわるすぎるためである。
Ⅶ 最後に
刺絡鍼法はその長い歴史自体がエビデンスとも言える優れた治療法である。しかしながら、誤解や理解不足もまだまだ多い現実もある。ひとりひとりが安全な刺絡の担い手であり普及の途上にあることを意識して、日々の臨床に活用して頂きたい。日本刺絡学会が発行している刺絡鍼法マニュアルや刺絡鍼法基礎講習会で推奨する臨床技術と、あはき法第4条に消毒について明確に法令化されていることも踏まえて適切な法的知識と滅菌、殺菌の衛生処理を実践したうえで適切な広報を行って頂きたい。